昭和時代、リンゴと言えばゴツゴツとした真っ赤なリンゴ。齧るとリンゴの芳醇な香りが口いっぱいに広がる米国生まれのスターキング・デリシャスだった・・・(イメージ画像:Pixabay)
米国・ニュージャージー州生まれの濃厚な赤い果実
大正10年(1921年)、アメリカ合衆国ニュージャージー州モンロービルに果樹園営んでいたルイース・ムード氏が〝デリシャス(リンゴ)〟の枝に一際、濃厚な赤い実が成っているのを発見。その穂木を別の枝に接木させ濃厚な赤い実が再び結実できるのか様子をみていたところ、種苗会社のスターク兄弟商会(Stark Brothers Nursuries)がその情報を聞きつけ当時6000ドルで買い取ったという。大正13年(1924年)に〝スターキング・デリシャス〟と名付けられた。
原種の〝デリシャス〟は実が成ってから赤くなるまで時間がかかり、収穫後の日持ちの悪さの問題があった。そのところに枝変わり(突然変異)の〝スターキング・デリシャス〟が出現。まさしく天の恵みであった。
〝デリシャス〟からそれ以降、いくつかの着色系の枝変わり(突然変異)が出現し商品価値が高まり、〝デリシャス〟を祖とする品種は世界的な主要品種に発展して言ったという。
日本で一度は幻の品種となるも日本中を席巻した〝スターキング・デリシャス〟
スターキング・デリシャスが初めて日本に持ち込まれたのは、昭和3年(1928年)以前とされているが、スターク兄弟商会(Stark Brothers Nursuries)と正式な手続きを経て3つのルートで時を同じくした昭和4年(1929年)に苗木を移入するも、当時は冷蔵技術や様々な問題により幻のリンゴとなってしまった。
それから時は流れ、正式な手続きを経ていた3つのルートの一つ、老舗の高級果物店の千疋屋(東京都)が機は熟したとばかりに〝スターキング・デリシャス〟の売り込み攻勢を仕掛け、昭和35年(1960年)以降から日本中を席巻する。
昭和50年代(1970年代から80年代初め)、私が子供時代のリンゴの代名詞は〝スターキング〟であり、当時リンゴの絵を描く時は丸い形よりややハート型寄り(長円錐形)に描いていたものだ。
ヘタクソでお詫び致す。御免!!
〝スターキング・デリシャス〟ブームのその後
国産の品種の台頭により、昭和50年代末期(1980年代中頃)になると、果物屋やスーパーの店頭であの濃厚な赤い芳醇な〝スターキング・デリシャス〟の姿を見なくなってしまった。
その理由は原種の〝デリシャス〟の影響が残っている品種だった〝スターキング・デリシャス〟は、常温での保存がNGで日持ちが悪かったことが祟り、常温保存(真夏の高温状態はNG。涼しい場所なら常温で大丈夫)ができ長持ちする〝ふじ〟〝むつ〟〝つがる〟などの国産のリンゴに取って代わられてしまった。いつの間にか日本人の記憶からも遠ざかってしまったのである。
ところがどっこい!ただでは転ばない〝スターキング・デリシャス〟
現在も〝スターキング・デリシャス〟は国内発祥の地の青森県・弘前市で作られている。収穫時期の10月~12月に市場に出回り、3月頃までの出荷分は大切に低温貯蔵され市場へと流通している模様。
現在は、平成15年(2003年)に品種登録された〝さんたろう(はつあき<ゴールデン・デリシャス+紅玉>+スターキング・デリシャス<デリシャスの枝変わり>)〟
増殖が難しく希少価値が高い〝おいらせ(つがる<ゴールデンデリシャス+紅玉>+スターキング・デリシャス)〟という新たな品種も生み出している。
〝スターキング・デリシャス〟に纏わるこぼれ話
(画像:Pixbay)
子ども心に印象に残っている話で、昭和51年(1976年)2月に明るみとなった〝ロッキード事件〟当時の過熱報道の最中、この事件の中心人物の一人のロッキード社副社長(当時)・アーチボルト・コーチャン氏に似た〝スターキング・デリシャス〟が見つかったとワイドショーで話題になっていたことをふと思い出してしまった・・・
※ただし、ネットで関連ワードで検索してみてもその出来事を記したものは一斉発見することはできなかった
ちなみに〝スターキング・デリシャス〟独特の〝コブ〟の様な隆起のことを〝王冠〟と呼び、まさしく〝スターキング〟と名付けれられただけある品種のリンゴなのだ。品種名を考えた種苗会社のスターク兄弟商会(Stark Brothers Nursuries)の関係者のネーミングセンスに拍手をおくりたい。
見た目と品種名とのギャップも感じさせる〝儚さ〟も魅力の一つ〝スターキング・デリシャス〟は発祥の地・米国では定番のリンゴとして今も尚、君臨している。
昭和の食卓に、遠足のお伴に駆け抜けた〝スターキング・デリシャス〟よ永遠に・・・久々に〝スターキング・デリシャス〟齧りたくなったなぁ・・
この記事を記す際、参考にさせて頂いたサイト
青い森の片隅から スターキング・デリシャス
※スターキング・デリシャスに掛けた日本人の姿に心震わせて頂きました。